私は別に、貴方のために尽くしたいわけじゃない。
私は別に、誰かのために死にたいんじゃない。
私はただ、自分のためにコトを起こすだけ。


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「何で今頃になって・・・・?」
春野サクラは呟いた。
つい先ほど師匠である綱手に呼び出されて鷹丸からコレが届いた、と包みを渡された。
内容は、赤砂のサソリとの詳しい戦闘記録、彼の身体状況、そして、サクラ自信が彼に対して感じたことを、包み隠さず一切を風影である我愛羅に報告しろとの事だった。
サクラは、複雑だった。
我愛羅が攫われてから二年がたち、尊い犠牲を払いながらもなんとかうちはサスケ奪還を成功させた今、上忍となった彼女は医療に身を捧げていた。
サスケは、連れ戻されたとはいえ、木の葉を裏切ったことには変わりないので今は刑務所で刑に服している。
サクラは時々サスケの面会に行っては、自分の想いを伝え続けていた。
努力が功を奏し、サスケが刑務所から出たときは結婚する約束もした。
だが、今我愛羅から届いた書を見て、そんな幸せなサクラの気持ちを曇らせた。
よりによって、人の心を無くした人形師の情報なんか、記録なんか、記憶なんか、思い出したくなかった。
我愛羅が人の事を根掘り葉掘り詮索する人間じゃないことは、サクラを含め、諸国が知ることであった。
だから、今回のことにより、サクラは彼がいつになく感情的になっていることを察した。
「不安ね・・・」
曇り空を見上げ、彼女は金髪のポニーテールが似合う親友の所へ、足を伸ばした。
「それでぇ?私に我愛羅君のところへ行けって言うの?」
「そう。ね、いのお願い!」
「いやぁよぉ〜」
いのは両手をこすり合わせて自分に頼み込んでいるサクラの願いを一蹴した。
「だいたぃ〜、私とチョウジの式が近々あるって知ってるでしょぉ〜?
なんで他の男の所に行かなくちゃいけないのよぉぅ。
それに私、我愛羅君、苦手なのよぉう」
「それは・・・・」
判らないことも無かった。
仏頂面、無口、オマケに女に優しくない。
いのにとっては何であんな奴が風影なのかと疑いたくなるような人格の我愛羅が里の頂点に立っているのはとても不満なことであったし、何年か前の中忍試験での我愛羅の狂いっぷりのトラウマが抜けきっていなかった。
故にいのは未だに我愛羅を苦手としている。
「それにぃ、我愛羅君はあたしたち人じゃなくて、戦闘記録をほしがってるんでしょ?」
伝書鳥に持たせてしまえばいいじゃないかというわけだ。
「うん。
でも、考えてみて?
我愛羅君が此処まで感情的になるなんて、絶対何かあるに違いないのよ。
ほら、テマリさんとシカマルのことでさえ、ただ微笑んでいただけなのに。
嫌な予感がするのよ・・・・・」
「そぉねぇ・・・・・」
2人は、話し合いの場として選んだ甘栗甘で深い溜息をついた。
あまり長居するのもなんなので、サクラはいのに別れを告げ、戦闘記録を引っ張り出した。
記憶をたどり、サソリの細かい癖などを思い出して加筆する。
だがしかし、そこでサクラは待てよ、と手を止める。
サソリの詳しい記録は砂隠れにこそ存在するのではないのか、と頭をよぎったのだ。
実際、草隠れの里へ彼のスパイと接触を持つ際に、砂隠れからサソリのデータを贈ってもらったはずだ。
なのに、実際の記録をよこせとは、本当に、これは異常事態ではないのかと。
サクラは胸にモヤモヤを抱えたまま書面を伝書鳥に括りつけた。
数日後に、木の葉から届いた書面を受け取った我愛羅は、ニヤリと哂った。
その様子を見ていたバキは、木の葉崩し前の我愛羅を見たようで背筋が凍ったという。


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俺は別に、お前のために尽くしたいんじゃない。
俺は別に、誰かのために死にたいわけじゃない。
俺はただ、自分のためにコトを起こすだけ。
人形を、壊しにかかるだけ。